「初めての不動産投資」
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東野は、ネットの株価を睨んで、そのあと天を仰いだ。
「ちっ!また下がった」
彼の名は、東野善雄。
最近の彼の生業は、資産を運用した運用益で生活を立てていた。
30代の頃に始めたインターネットでの子供服販売会社が軌道に乗り、それを知った老舗の有名子供服メーカーが、彼の会社買収のオファーをしたのだ。
その話に乗った彼は、42歳で既に数億の資産家となった。
それから1年半ほど、彼は会社を売ったお金を株と外貨で運用している。
それが、この半年くらい前から。アメリカのサブプライムローン破綻の影響で株価は下がり、思うように運用益が出なくなり、大きな含み損を抱えることになっていた。
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「株や外貨取引はリスクが高いな」
かといってほとんど無いに等しいような金利で銀行にお金を寝かしておくのもバカらしい。
安定的に資金運用するには、やっぱり不動産を持つのがいいのかも?
東野は、ここ3ヶ月で3000円も下がった平均株価のボードを見ながら考えていた。
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やると決めたらすぐやるのが東野の性格だ。
この行動力が、彼に今の成功をもたらした。
証券会社のサイトを閉じると、直ぐに検索サイトで投資用不動産を探し始めたのだ。
1棟の売りビルや売りマンションの情報が、たちどころに画面に出てきた。
満室になった場合の予想収益率も出ている。
でも、不動産を持つとメンテナンスの費用も必要になるだろうし、もちろん固定資産税もかかってくる。
売値を基準に収益率を算出しているけれど、買う場合にはこの値段に加えて、登記費用や仲介手数料などの諸費用もいるはずだ。
だいいち、現在空室の設定賃料にしても、この値段で本当に入居者が入るのだろうか?
空室の間は、当然のことながら収益が減るわけだから、収益率は落ちることになる。
「ここに出ている予想収益率というのは実際とは違ってくるな」
毎日のように数字を眺めている生活をしているせいか、東野は数字に敏感になっていた。
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それでも、東京郊外の駅から徒歩10分の場所にある売りビルに目が留まり、電話をかけた。
「すみません、ネットで見たのですが、物件番号1234番の売りビルについて教えてもらいたいのですが・・・」
電話の応対に出たのは、営業マンらしき男性だった。
「はい、少々お待ちください。え〜っと物件番号1234番ですよね、ああ、すみません、この物件はつい先日に売れてしまったようです。」
「もしよかったら、どういった物件を探しておられるのか教えていただければ、他の物件をご紹介させていただきますが・・・」
東野は、特にこの物件に固執があるわけでもなかったので残念だという気持ちにはならなかったのだが、このビルを実際に買って運用する人がいるのだということを実感した瞬間でもあった。
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東野は、収益物件を持とうと思っていること、予算は2億円まで、もちろん収益性が高いのに越したことはないが、耐用年数がより長いこと、どうせ持つなら新しい設備がいいことなどを要望した。
「そうですね〜、中古物件の方が収益率は高いのですが、耐用年数や設備についてのこだわりがおありでしたら、土地を購入して建てられる方がよろしいのではないですか?」
営業マンは、そう勧めてきた。
そうだな、いっそのこと自分の気に入ったデザインのビルを建ててやるか。
東野は、自分のビルを建てることができるかもしれないと思うと、何だかワクワクしてきた。
「ええ、ビルを建てるのにいい土地がありましたら、そちらのご紹介もお願いします。」
「判りました、では物件をピックアップして、改めてご連絡させていただきます。」
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翌日、東野の携帯電話が鳴った。
「昨日、お問い合わせいただきましたリッチ興産の金田です。」
「駅前の50坪の土地が売りに出ましたので、ご連絡させていただきました。ここなら東野さまがご希望のビルを建てる立地としては、最適だと思いまして・・・このエリアは、容積率が400%ですから、延床200坪までのものを建てることができます。」
「そうですか?では検討したいと思いますので、メールで資料を送ってもらえますか?」東野はメールアドレスを伝え、メールが入るのを待った。
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「You Get Mail」
15分位して、メールが到着する着信音が鳴った。
その売り土地は、駅から徒歩3分の主要幹線に面した土地で古い家が建っている。
地図から周辺の環境を調べると、郊外の駅前らしくコンビニもあり病院もあるエリアのようだ。
資料を見ているうちに、またリッチ興産からメールが入った。
こちらは、ビルのおおまかなプランと収支計算だった。
5階建てビルで1階は店舗、2階は事務所、3階から上は2DKタイプの住居のプランで、土地値段、建築コストからはじき出された予想収益は7%程度のようだ。
購入時の諸費用や管理費、空室リスクを省いても5%弱は利回りがありそうだ。
買おうか?
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翌日、東野は物件がある現地にいた。
駅からは、ちょうど3分程度で人通りも多い場所だ。
ビジネス街というよりは、ベッドタウンの中心という雰囲気の駅前の様子であったが、駅前立地と幹線沿いであるというのが、とてもいい。
物件説明に来た金田の車で、契約のためにリッチ興産に向かった。
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登記簿上では、土地の所有者は個人名になっていたが、リッチ興産が買い取って所有権はリッチ興産にあるようだ。
登記簿上の個人とリッチ興産との契約書のコピーを提示してもらって説明も受けたので間違いないだろう。
ただ、売買金額はマジックで塗りつぶされており、不明なのが目についた。
リッチ興産はいくらでこの土地を買ったのだろう?
一瞬そう思ったが、そこはプロの不動産屋だからそれなりの利益を取っているのは当たり前のはずだ。
こちらとしては、これで収益が上がれば文句は無い。
決済は1週間後である。
土地代金の5000万円程度なら、定期預金を解約することもないだろう。
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1週間後、決済が終わり、物件の所有権は無事に自分の名義になった。
「東野さん、地元に懇意にしている建設会社がありますので、ご紹介させていただきますよ。そこなら多少の無理はききますし、うちにもよく出入りしていますので、物件についての説明もスムーズに運ぶことができますから。」
リッチ興産の金田は、人なつこい笑顔で勧めてきた。
「判りました、お任せします。」
自分は建設会社のコネなど無いし、ここは任せておいた方がスムーズに行くだろう。
そう思い、東野は承諾した。
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